派遣切りは効果あるのか?

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 リーマンショックから10年を経過した2019年に書かれた高田直芳先生の「日産自動車の「派遣切り」が事業効率向上につながらない理由」からコロナ禍の今に役立つ経営視点を読み解く。
 
 コロナ禍だからということでは決してない「派遣切りや雇い止めといった問題」は、若者の路上生活や自殺増加が指摘されており、その社会問題としての根が深い。
 
 コロナ禍では、感染防止で緊急事態宣言が発せられ、飲食業を中心に人が集中するへの移動に注意が呼び掛けられた。海外からの渡航者が入国できず、観光業としての日本は打撃をうけている。国内旅行も同じことである。
 
 飲食業をはじめ、百貨店などの小売業は軒並み減収減益の憂き目をみている。老舗のアパレル「レナウン」が倒産した。理由はネット販売への出遅れが祟ったようだ。
 
 その一方で、トヨタ自動車は2兆円を超える過去最高益を記録した。リーマン・ショックのような金融経済発ではない不況だが、それぞれの企業に等しく降りかかる。倒産と最高益とは、格差が大き過ぎる。
 
 高田先生を引用すると「経営戦略の差」すなわち、経営戦略に芯が通っていない企業は不況の波をもろに受ける。確固とした経営戦略のためには、「研ぎ澄まされた分析能力」が必要になる。
 
 2009年当時は、トヨタでさえ大幅な赤字に陥った。例に漏れず日産も赤字になっている。一時、日産のV字回復させた立役者だったカルロス・ゴーン氏は、晩年禍根を残して、会社法違反等の罪で身柄を拘束され、レバノンに秘密裏に逃亡した。
 
 それでは、高田先生の研究内容を見てみよう。
 

「タカダ式操業度分析」でみる日産

   

  (〔図表 1〕(日産自動車の「派遣切り」が事業効率向上につながらない理由))

 

このように〔図表 1〕は、

 (1)理論上の利潤を最大にする売上高(最大操業度売上高)

 (2)量産効果を最も発揮できる売上高(予算操業度売上高)

 (3)利益と損失の分水嶺となる売上高(損益操業度売上高)

 (4)実際の売上高

4種の売上高の推移を並べて企業の収益力を判断しようとするものである。

 

損益操業度売上高よりも、損益操業度率が重要

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(〔図表2〕(日産自動車の「派遣切り」が事業効率向上につながらない理由))

 

 図表 1〕の予算操業度売上高を100%に置き換えて、最大操業度売上高・実際売上高・損益操業度売上高それぞれを、最大操業度率・実際操業度率・損益操業度率という百分率表示に改めたのが〔図表 2〕である。

 

派遣切りは損益分岐点の改善にならない

 2008年の暮れから非正規社員期間工)の解雇や新規設備投資の凍結といった形で、どこの企業でも展開されている「減産ブーム」である。


 こうしたリストラ策のうち、いわゆる「派遣切り」は、損益分岐点を改善させる効果がほとんどないことがわかった。

 

ワークシェアリングの功罪

 一方、派遣切りと同時に話題となっているワークシェアリングのほうは、損益分岐点を改善させる効果があるようだ。

 

 ただし、営業部門や研究開発部門にワークシェアリングが機能しないし、思い切って休業するにしても60%以上の賃金を保証する必要があるから(労働基準法26条)、その効果も限定的であろう。

 

 厄介なのは、業績が悪化しているのに損益分岐点が改善しているように見える場合もあるし、業績好調であっても損益分岐点がそれを上回るスピードで上昇する場合もある点だ。


 禅問答のような表現をするならば「削るにあたって抵抗力の弱いコストは、いくら削っても赤字転落を食い止める効果はない」のである。

 

 コスト削減と損益分岐点を区別して経営戦略を展開していかないと、業績悪化という傷口に塩を塗りかねない。

 

 日常からブレることなくコスト削減を戦略としているトヨタの強さの片鱗を伺い知ることができそうだ。